中華人民共和国における1980年からの経済成長は、おもに製造業について外資系企業にも生産拠点を中国に置いてもらったうえで輸出主導で達成したとされます。
しかし、この記事ではもっと根本的な中国の発展理由や、これからの経済発展を導くとされるBATHという4大企業、そして中国経済の強み、ヤバい事情を中学生にもわかりやすいレベルで解説します。
私は『高校生からわかる社会科学の基礎知識』という政治経済本の著者でもあるので政治経済の解説は得意です。
タップできるもくじ
中国が経済発展した歴史的かつ政治的な理由
- もともと「眠れる獅子」だった(19世紀・清朝の潜在力に対する呼び方)
- 停滞していた時期が長かっただけに、発展の余地が大きく残っていた
- 政治面では一党独裁と各種自由権の抑圧、経済面では株式市場や私有財産が認められているなど、現代の中国は社会主義的な独裁と資本主義的な自由が併存している
- 停滞期があったからこそリープフロッグ型の発展が起きた
- かつて賃金と土地は安かったし、政府が改革解放政策を進めたから諸国の製造業が工場をたくさん置いた
- 中華思想
※中華思想とは中国(漢民族)こそが世界の中心だという考え方。中国人はプライドがとても高く、日本や欧米に勝ちたがるんです。
歴史的な要因:中国は近代化が遅れた
中国が相対的に(欧米先進国と比べて)停滞したのはおよそ1800〜1980年までであって、それ以前の時代は文化・経済・軍事について世界屈指の超大国だったように、もともと中国は高い潜在能力をもっていました。


日本では世界史の教科書だけでなく日本史の教科書でも秦、隋、唐、宋、明について触れるように、古代~中世の中国王朝は日本になかなかの影響をおよぼしていました。
そして江戸幕末~明治時代の日本は、時代の最先端を突き進んでいた欧米にならって欧米の要素をたくさん取り入れて急速な近代化(≒欧米化)に励みました。
しかし、中国は今も昔もプライドが高いため19世紀~20世紀前半では日本ほど大きく欧米の要素を取り入れたがりませんでした。
※中国による大きな海外進出は15世紀の鄭和のあとは控えられていた感じです。近世の中国は国内市場だけでも充足していたため、海外進出が弱かったのかもしれません。
※世界の覇権国(中心的な国、圧倒的な力をもった国)は、16世紀のポルトガルとスペイン、17世紀のオランダ、18世紀と19世紀の大英帝国、20世紀のアメリカ合衆国が定説。中世は中国と中東、それ以前はローマ帝国・ローマ共和国やギリシャみたいな感じで覇権国は変わってきました。
社会主義的な要因:粛清は内側へ向かった
第二次世界大戦後の中国は社会主義体制のもとで1980年あたりまで失政・停滞が続きました。
中でも1949〜1976年までの毛沢東による独裁政治の中で虐殺・餓死・刑死した中国人の数は5000万以上ともいわれています。
一般に戦争は国VS国の構図になりやすいですが、社会主義下の独裁政治は国民を大粛清するほうへ向かってしまいやすいです。
ソ連のスターリン、カンボジアのポル・ポト、ルーマニアのチャウシェスク、北朝鮮の金日成・金正日・金正恩と並んで毛沢東の恐怖政治はひどかったんです。
中華人民共和国の最高指導者
- 1949~1976
毛沢東(もうたくとう)
- 1976~1978
華国鋒(かこくほう)
- 1978~1989
鄧小平(とうしょうへい)
- 1989~2002
江沢民(こうたくみん)
- 2002~2012
胡錦濤(こきんとう)
- 2012~
習近平(しゅうきんぺい)
中国国外で手腕が評価されている指導者は鄧小平、江沢民、胡錦涛。低評価なのは毛沢東と習近平でしょう。中国国内の評価だと情報統制があるためまた違うでしょうが…。
中国の開発独裁は成功したか
たとえば現代の北朝鮮はものすごく貧しく、一般人(とくに地方の農民)はひどく痩せ、飢えに苦しんでいます。
しかし、北朝鮮は強力なミサイルを一定数保有したり、政権幹部だけが散財する経済力はあります。
これは独裁政権幹部が国中のお金や国際的な支援金を自分たちにばかり集中的に吸い上げて自分たちの都合のいいことにしかお金を使わないからです。
ただし、政府がインフラ(電力、通信、水道、治水、道路、鉄道)や工業の発展を強引に導けば、独裁が部分的に評価される例もあります。これを開発独裁といいます。
独裁ではない民主主義・自由主義的な発展だとインフラの整備は遅れたり、高速道路や高速鉄道向けのまっすぐで広大な用地を確保しにくいですが、開発独裁ならそういったインフラの整備を早く強力に導けるからです。
やはり途上国が早く成り上がるには、まずは成長期待の大きな産業やその土台(インフラ)にお金を集中させるほうが効率的。
たとえば民主主義下の土地収用はきちんとした法整備、予算策定、説明と話し合い、対価の支払い、期限の設定が必要であり時間がかかります。
開発独裁は韓国や中国などで見られた例ですが、現代の中国では都市開発が失敗して廃墟になった例も結構あります。



北京の一般道(日本の一般道は狭くてくねくねの道が多いが、中国の大都市圏の一般道は広く整然と区画されているのが多いのはもともと広いうえに開発独裁的な計画性があるからか)
外資の利用は大きかった
戦後から1980年代までの中国の工業政策はおもに中国だけの力で成功をめざすものでした。
しかし、1980年代からは日本やアメリカなど外資系企業の技術力にも頼り、政府は彼らに対する関税・法人税・所得税を安くしました。 これが鄧小平政権による改革開放路線です(鄧小平は有能)。
当時の中国は人件費も土地も安かったので外資系企業としても進出しやすかったのです。
その結果「世界の工場」と呼ばれるほどの工業化と大きな経済成長を達成しますが、先進国の技術はいろいろ真似されてしまったのでした。
中国で本格的な株式市場と証券取引所ができたのは1990年と新しいほうです。
インターネット時代の中国:リープフロッグ現象が起きた
1950~1980年あたりまでの中国は大きく停滞していました。とくに地方はインフラの整備が遅れていました。
しかし、その後、インターネットや電子機器、電子決済は急速に広まりました。
中韓台やBRICSの台頭などによって日本の産業(とくに製造業)は相対的に地位が下がっていきました。
これに関して現代の日本だと、昔ながらの固定電話や銀行窓口、現金・記帳に慣れてしまったお年寄りがたくさんいるため、徹底的なインターネット化・電子化は政治的に難しいです。
これは例のあのウイルスが広まったときに固定電話でワクチンを予約していた日本人高齢者がたくさんいたことにも表れています。
インターネットのほうがワクチン予約は楽であり、文字記録も残るし直前にお知らせメールが届くし間違いも少ないし、自治体の人件費も減らせるなど大きな利点があるのですが、自力でネットを使えないお年寄りは日本では結構います。
しかし、アフリカや中国(とくに地方)は固定電話が普及しない停滞期があったため、21世紀では固定電話の普及段階を飛び越えてスマホや電子決済が急速に普及したのです。
しかも中国は偽札が多くて現金は信用されにくいですからね。
そういったインターネットと端末の普及とともに外国情報も知れ渡り、中国人は中華思想とあいまって対外的な対抗意識を強くした感じです。
中国が経済発展した地理的な理由

黄色い線に挟まれた地域が温帯~亜寒帯(乾燥地帯や高山地帯はのぞく)(上記はメルカトル図法の地図であるため赤道から遠いエリアほど面積が広く描かれてしまっている)
- 北半球に位置する(南半球は発展しにくい)
- 黄河と長江という大河川と支流があった(大規模な農業や工業には大量の淡水が必要)
- 国土は西部〜北部の砂漠や高山地帯以外は暑すぎず寒すぎない温帯~亜寒帯気候(ほかの先進国や大都市も温帯〜亜寒帯が多い)
- 国土は広く、とくに東側は平野部が多い(大規模な工業や農業が発展しやすい)
- 国土の東側は広く海に面している(海に面していない国は経済発展しにくい)
- 天然資源の産出がそれなりに豊富
- メガシティと経済特区の存在
中国は上記のように地理的にも発展する条件がいくつも整っていました。
昔の教科書では四大文明の一角として黄河文明を習いましたが、今では長江文明や遼河文明などと併せて学ぶ感じです(黄河文明だけが特別ではない)。
やはり大きな古代文明が成立するにはそれなりの河川が必要だったということでしょう。


長江の下流沿岸
メガシティの時代が来る?
21世紀後半は国家単位の存在感より、上海、東京、ニューヨーク、バンガロール(インドのシリコンバレーといわれる都市)のようなメガシティ(圏内居住人口1000万人以上の巨大都市)の存在感がますます高まるといわれています。
中国はこのメガシティをいくつも抱えています。
- 北京
夏冬の五輪開催でも有名な政治の中心都市(天津に近い)
- 上海
中国経済の中心都市
- 深圳
新興企業と起業家が多くて特区がある香港に近い都市
- 広州
食文化で有名な港湾都市
- 成都
三国志の時代から発展していた内陸型の観光都市
- 杭州
歴史ある観光都市
- 重慶
工業と文化に秀でた内陸都市
- 南京
大戦中に荒れたが今は教育や科学の研究で有名な都市
- 蘇州
日系の製造業が多い都市
- 香港
英国領だった時期もある一国二制度の金融都市
中国の大都市圏では経済特区を設けてイノベーションを推進しているところもあります。
中国が経済成長した人的な理由
- 人口が多い(中国国内・中国語圏だけでも超巨大な市場)(それだけ人口が多いと天才も多い)
- 学校教育の水準や、親の子に対する教育熱が高い(科挙の時代から出世競争が激しい)
- 良くも悪くも貪欲(良い面は上昇志向が強いこと)(悪い面としては近隣国の主権を脅かしてまで資源を貪っていること)
- 良くも悪くも他社や他者をパクろうとする(最近では工業製品のデザインが洗練されてきている)
- 華僑といって世界各地に中国人コミュニティがある
中国は人材面でもそれなりに優れています。
これで一党独裁がなくなって社会の自由度が上がれば中国人はますます脅威になりそうですが、中国共産党が利権を手放すことはあるのでしょうか。
開発独裁は初期の発展には役立ったところもありましたけどね。
中国の一党独裁政党である共産党は昔から悪さをしでかしていますが、中国国内の検索エンジンでは検閲されているため共産党にとって都合が悪い情報は出てきにくいです。
これでは民衆やマスコミからの批判にもとづく自浄作用が起きません。
本当は中国や北朝鮮のような国にこそGoogleのような自由主義型の検索エンジンが必要なんですけどね。
中国企業の強み:とくにBATHについて
- Baidu(バイドゥ=百度)
検索エンジンで有名
- Alibaba(アリババ=阿里巴巴)
電子商取引で有名
- Tencent(テンセント=騰訊)
日本でいうところのヤフーのようにさまざまなネット事業で有名
- Huawei(ファーウェイ=華為技術)
基地局や端末製品で有名
中国の巨大IT企業であるBATHは、いずれアメリカ発の巨大IT企業であるGAFAMに比肩しうるといわれています。
ほかにもテレビで有名なTCL、白物家電で有名なハイアール、ガジェットで有名なAnker、安くて優れた品質のパソコンで有名なLenovoは日本企業にとって脅威でしょう。
まあ富士通やNECのパソコン事業はLenovo傘下ですから。
AnkerはGoogleで働いていた中国人をもとに設立した企業であり、アメリカ流のデザイン感性も反映されているところに魅力を感じます。
AnkerやLenovoは日本では日本法人を設立しています。

Ankerの急速充電器と外箱
中国が経済発展した言語的な理由
- 日本人よりはまだ英語がうまいから英語圏で活躍する人もいるしプログラミングが得意
- 都市部では標準語として北京語を推進
中国語は漢字で表現しますが、中国語の語順は英語に近いです。
したがって、中国人は日本人よりも英語がうまい傾向があります。つまり、中国人は日本人より英語圏に進出しやすいといえます。
さらにプログラミング言語も英語に近く、プログラミングはIT産業の発達にも役立ちます。
中国はもととも多民族・他言語の社会ではありますが、建設や工場といった現場では標準語のほうが意思疎通がしやすいこともあって標準語として北京語が推進されています。
中国経済のヤバい弱み:マイナス要素もある
- たとえば闇っ子(無戸籍児)が何人もいたり、社会主義国には失業者という概念が希薄なように中国政府の統計はいろいろ怪しい(隠蔽体質)
- 少子高齢化が進行中(かつての一人っ子政策の影響)
- これまでは自由権の度合いが低くても高い経済成長率があったから民衆の不満はそれなりに抑えられたが、経済成長率が鈍化したら自由権の低さに不満をもつ人が増える(そのとき政治体制は軟化するか硬化するかは何とも言えない)
- 昔は政府が横暴でもバレにくかったし民衆の反発を抑えられていたが、現代ではネットの発達や海外の眼によって横暴がバレやすくなっているし、有力な人材は国外脱出もしやすくなっている
- 高い失業率に不満をもった若者が民主化運動を一気に広めて混乱する可能性あり
- 若年層の失業率が高い(若年層失業率は20%、全体の失業率は約5%といわれるが↓)
- かつて人件費は安かったが最近では上昇しているため外資系企業の製造拠点はベトナムやインドなどに流出している
- 人材が国外に流出して、そのまま戻ってこないパターンが結構ある
- 大気や水質の汚染が深刻(日本も経済成長が著しい時期は公害がより強かった)
- パクリが多いから権利関連で外国の政府や企業ともめることも多い
- スパイを海外に供給するとともに、中国国内で怪しい人をスパイ容疑で積極的に逮捕している
- 愛国無罪がありうる(実店舗が一方的に壊された外資系とかは逃げ出したくなる)
- 刑罰がかなり厳しい(外国人は刑罰を恐れて中国に寄り付かなくなる)
- 不自由さに不満をもった有望な外資系企業が逃げ出すこともある(Amazonは部分的に撤退、Googleはほとんど撤退)
- 親中派が多い国は少ない(とくに欧米で中国の評判はよろしくない)(南米やアフリカの一部、ロシアは親中派がやや多い)
- 今後、大きな経済成長が見込まれるアフリカにお金をばら撒いているように先進国ヅラしているが、欧米や日本のような先進国に対しては「中国は途上国だ」と主張している
- 政府は地方の少数民族を虐げている(ウイグル、チベット)
- 台湾問題(中国人は台湾を中国の一部だと見なしているが、台湾人は台湾を中国の一部だと思っていないから、そのうち中国は強攻策に出るかも…)
- アメリカとの間で貿易摩擦が起きている
- 地方政府は財政難
- 農村部と都市部の格差が大きい
- 中国の土地は基本的に国有ばかり
- 各地で無計画な土地開発が進み、大手不動産企業の経営が大きく傾いている(中国経済はほかの国より不動産部門に頼る割合が大きい)
中国は以上のように結構な弱みも抱えています。
一般に中国に限らず国家というのは領土を現状維持あるいは拡大したがります。縮小するほうへは動きたがらないのです。
なぜなら国土を縮小すると、資源が少なくなる、隣接国家が増える、国家としてのプライドが傷つく(譲歩したがらない)、軍事的な問題が起きる、といった理由があるから。
とくに中国は国土が広く人口も多いので民族問題はより複雑。
民間企業と政府とでは行動原理が違う
基本的に民間企業は私的なお金で動きますから儲かる事業を拡大し、儲からない事業からは撤退します。
民間企業は儲からない事業について判断の誤りを認めないと損失が拡大しますから割と早期に撤退するわけです。
しかし、政府は税金で動きますし公職者は自分たちの誤りを認めたがりませんから無駄な開発にこだわり続けてしまう場合もあります。
とくに中国は政府の規模および権限がとても大きく、不動産事業について政府が介入してきた割合が高かったため、不動産は需給バランスが狂った感じです。
2017~2018年ではシェアサイクルを供給しすぎて、とんでもない量が山積みになっていた光景も衝撃的でした。
廃墟・空き家問題は日本にもありますが、中国の廃墟は日本のよりも規模が大きいです。
開発独裁はインフラ建設には役立ちますが、不動産について介入しすぎると無個性で冷たい街が出来上がるという欠点もあります。
突貫工事(スピード重視の工事)だと、いずれ地盤沈下したり崩落するといった懸念もあるでしょう。

