あなたは家電量販店のスマホコーナーを眺めたとき「見た目も性能も価格も似たような機種が多いな…」と思った経験があるでしょう。
これはコモディティ化と呼ばれる現象が原因です。
コモディティ化とは、当初、高い価値があった商品が普及や生産の効率化などともに価値が下がり、差別化しにくい普通の商品ばかりになること。
コモディティ化は当サイトがおもに解説するスマホやPCでも顕著な事象です。
ちなみに昨今のスマホは価格が高いですが、これは円安やインフレといった社会的な現象が大きく影響しています。
PCやスマホなどの分野でコモディティ化が起きた原因
- 効率をもとめての垂直統合(東西冷戦終結後のグローバル化も重なった)
- 部品の規格化と専門分化
- 大量生産がもとめられる製品
- 特異な製品はもとめられにくい(たとえば奇抜な形のスマホは売れない)
↑上記4つが起きると、企業にとって商品を差別化するのは難しくなるため、価格以外では勝負しにくくなります。

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コモディティ化をたどるスマホ【差別化は難しい】
昔、アメリカのアポロ11号という宇宙船が月面着陸に成功したとき(懐疑論もあるがそれはさておき)世界中の人々は「アメリカの技術ってスゲーな」と思っていました。
そのときのNASA(アメリカ航空宇宙局)の大型コンピュータの金銭的価値は8000億円もの価値がありました。
時は流れて今の時代、当時のNASAの大型コンピュータよりもハードオフの隅っこで売られている激安スマホのほうが性能はかなり高いです。

- コンピュータの性能差と価格
現代のゲーミングPC(10〜30万円)>現代の安い中古スマホ(1万円)>>1990年代の標準スペックPC(当時30万円)>>アポロ11号による月面着陸のときの大型コンピュータ(当時8000億円)
コモディティ化の流れ:垂直統合から水平分業へ
ここからはパソコン生産の簡単な歴史について。これがこのあとのスマホのコモディティ化につながります。
昔、コンピュータの生産で大企業だったアメリカのIBMは、コンピュータ内のさまざまな部品やソフトをなるべく自社グループで生産していました。
このように商品の生産を自社グループ企業ばかりで行う体制を垂直統合といいます。

自動車産業を例にとった垂直統合
しかし、1980年代後半~1990年代前半では、CPU(中央演算処理装置)はインテル、OS(基本ソフト)はMicrosoftというようにIBMはIBM製PCの部品やソフトについて外部企業を頼るようになりました。
このように自社グループ以外の企業とともに生産する体系を水平分業といいます。
IBMグループだけでPCの各要素をつくるよりも、CPUに特化したメーカー、ソフト開発に特化した会社の製品を使うほうが性能の割に安く生産できるからです。
CPUやOSの生産はどんどん高度な技術がもとめられていきましたから(=専門分化)、IBMだけでは生産できなくなったともいえます。
このころには、PCの部品やソフトはIBMだけではなく各社のPCに組み込めるように規格化されました。

規格化とは部品の形状やサイズを統一すること。
身近なところでは、たとえばペットボトルのフタは互換性があります。
規格化がすすんだほうがリサイクルやゴミ削減にも有効です。
スマホでも水平分業がすすんだ

DELL XPSノートPC
でも、IBM以外のPCメーカーもPC生産でCPUはインテル、OSはMicrosoftを頼ると、できあがるパソコンはどれも似たような感じになってしまいます。

そうなると、PCメーカーは価格以外で差別化できる要素がなくなっていくというわけ(対策も一応あるが有効性は弱い)。
企業はPC生産に自動化を取り入れるなどコスト削減に取り組みますが、これも価格面の対策です。
NECや富士通は水平分業と低価格化に乗り遅れて海外シェアをかなり落としましたし、Sonyや日立はPC生産から撤退してしまいました。
スマートフォンは小型PCですからスマホの分野でも水平分業がすすみ、Apple以外のメーカーはスマホ生産について利益をとりにくくなり、日本企業はスマホからも撤退が相次ぎました。
スマホ生産はAppleのiPhoneのような特別なブランド感と独占力がないと割に合わないものになってしまったのです。
現代におけるスマホ部品のシェア
現代ではスマホの部品生産は日本と台湾と韓国とアメリカの企業が強いです。組み立て工程の拠点は中国に多い傾向があります。
- 基本ソフト(Android、iOS)
Google(アメリカのグーグル)、Apple(アメリカのアップル)
- CPU
Apple、Qualcomm(アメリカのクアルコム)、MediaTek(台湾のメディアテック)、HiSilicon(中国のハイシリコン)、Samsung(韓国のサムスン)
- メモリ
Micron(アメリカのマイクロン)、Samsung、SK Hynix(韓国のエスケーハイニックス)、Kioxia(日本のキオクシア)
- 半導体設計
Arm(イギリスのアーム)
- ディスプレイ
LGエレクトロニクス(韓国のエルジー)、Samsung、ジャパンディスプレイ
- リチウムイオン電池
TDK、LG、CATL(中国のコンテンポラリー・アンプレックス・テクノロジー)
- カメラセンサー
ソニー、Samsung
- 積層セラミックコンデンサ
村田製作所
スマホの組立工場は中国やベトナムが多いです。ソニーのXperiaはタイ工場で組立。
ちなみに数ある完成品メーカーの中でも例外的にAppleだけは垂直統合がそれなりに残っています。
コモディティ化は消費者にとってはプラス
コモディティ化は価格低下を筆頭にユーザーにとってはプラスの面が大きいです。
スマホは部品が規格化したおかげで価格は下がり、Androidスマホ同士なら他メーカーの製品でも操作しやすくなりました。
まあiPhoneとAndroidスマホは操作がぼちぼち違いますが、慣れれば難しくありません。
コモディティ化への効果的な対策は少ない
コモディティ化が起きると、商品の差別化が難しくなる、価格競争が激しくなる、営業が売り込みにくくなる、などメーカーには困った事態が生じます。
メーカーとしては価格以外でも差別化できる要素は一応いくつかありますが、決定打に欠けます。
スマホで他社と差別化できるとしたら(ツッコミどころは後述)
- 自作PC並みの高カスタマイズのスマホ
- スマホの外観塗装にこだわる
- 変わった形のスマホ
- Lightningのような独自規格
- iOSのようなOSの独自規格
- 独自のブランド感を出す
- OS以外のソフトについてプリインストールを多くやる
- サポートを丁寧にやる
自作PC並みの高カスタマイズのスマホ
これまで述べたようにデスクトップPCはコモディティ化していますし、部品が大きいですから、部品の交換や増設が簡単にできます。
一般人としても部品を買い集めればデスクトップPCが簡単に組み立てられます。これが自作PCです。
自作PC並みの高カスタマイズ・デスクトップPCも売っています。

管理人の自作PC(ケース、冷却ファン、マザーボードなどは多様なモノが選べる)
スマホもこの要領で部品の組み合わせを広く選べる高カスタマイズ品を生産するという手があります。
しかし、スマホは部品が小さいためカスタマイズが難しいですし、下手に改造すると電波法違反にもなります。

参考記事
外観塗装にこだわる
高カスタマイズと近い発想でスマホ生産は外観塗装にこだわるという手もあります。
しかし、日本人の多くはスマホにケースをつけます。
スマホにケースやシールなどをつけると、それだけで一定の個性化はできますし、もともとの塗装色はわかりにくくなります。
そうなると、外観塗装にこだわったスマホはメーカーにとって意外と割に合わないのでしょう。
変わった形のスマホを発売する
一部のAndroidスマホメーカーは折りたたみスマホや2画面スマホなどを発売しましたが、正直言って売れ行きはイマイチ。
やはり現代のスマホ市場では普通っぽい形のスマホのほうが圧倒的に売れるようです。
日本のバルミューダは上記左側のような丸みを帯びたスマホとしてバルミューダフォンを発売しましたが、高価格では売れませんでした。
このバルミューダフォンは大幅に値引きしたら在庫はさばけましたが、これでは割に合いません。
そのためバルミューダはスマホ事業化から撤退してしまったのでした。
参考記事
独自規格の製品を売る
AppleはiPhoneについてLightningという独自規格を長らく保持してきました。
独自規格は、iPhoneのような売れる製品であれば大きな利益が得られるからです。
しかし、独自規格のケーブルや充電はユーザーにとって保有する器具の数が無駄に増えるなど環境負荷が大きいです。
さらにEUのような大きな組織から「環境負荷が大きい」と文句をつけられることもよくあります。

iPhone15
そのためAppleのLightning規格はiPhone15の発売にて終わりましたとさ。
独自規格のOSを売る
独自規格としてのOS(基本ソフト)を開発して売って差別化するという手もあります。
これまた独自規格としてのOSは売れれば大きな差別化と利益につながります。
しかし、OSの開発にはとてもお金がかかるうえに、それで売れなかったら悲惨です。
たとえばあのMicrosoftでさえもWindows Phone(スマホOS)からは撤退したように、今からAppleのiOSとGoogleのAndroidの牙城を倒すのはとんでもなく難しいです。


Androidスマホはさまざまなメーカーが乱立しているため利益が出にくいですが、iPhone(iOS搭載スマホ)はAppleだけしか発売できませんから大きな利益が出やすいです。
ソフトのプリインストールは評判が悪い
スマホメーカーはスマホに最初から(ユーザーの手に届く前の時点で)独自性のあるソフトをインストールするという手もあります。これを「プリインストール」といいます。
しかし、今までに国産のスマホ・PCメーカーがプリインストールしたソフトは評判が悪いモノばかり。
「プリインストールなんて余計なことをして動作側を遅くするより、もっと安くしろ」「押しつけがましい」とかよくいわれていたものです。
したがって、よほど画期的なソフトでない限り、ソフトのプリインストールは売上増大策の悪手になりやすいといえます。
サポートを丁寧にやるのも決定打にならない
一般にスマホメーカーのサポートは、Appleをのぞく外資系メーカーは簡素で、国産メーカーはサポートは充実している傾向があります。
そこで購入後のサポートを丁寧にやるという手もありますが、これはこれでコストがかかりますし、メーカーにとって売上爆増の切り札になるとはいえません。