純国産のパソコンやスマホとは内部の部品や基本ソフトも含めてすべて日本国で生産された製品のこと。
現在、この定義に沿った純国産パソコン、純国産スマホの生産は企業レベルでは一切ありません。「純国産のパソコンやスマホが生産されている」と言っているサイトはウソつきです。
現在、日本企業としてデスクトップ、あるいはノートパソコンを生産している有力企業といえば以下のとおり。
- NEC
- 富士通
- MCJ(パソコンブランドはマウスコンピューター、iiyama)
- DynaBook
- Panasonic
- VAIO
- FRONTIER(ヤマダ電機系列)
- EPSON
ほかにも日本には中小メーカーがたくさんありますが、有力企業という水準だとこんなところです。
スマホメーカーだと、ソニー、SHARP、京セラなどがスマホをしぶとく生産しています。
日本のパソコンメーカーは「ウチは国内生産だから安心」などと宣伝しがち。
さらに日本のPC初心者や中高年は「海外メーカーはなんとなく怖い、やっぱり国産が安心」という国産信仰をもっておりNECや富士通を選んでいるのは珍しくありません。
それでは日本人は日本国産メーカーのパソコンばかりを買うべきなのでしょうか。
結論からいうとパソコンメーカーの国籍(母国、本社所在国、製造国)はあまり気にする必要がありません。
今回はそれを以下の論点から説明します。
- 国産メーカーも海外メーカーもパソコンは海外各社の部品とソフトの集合体にすぎない(PanasonicやVAIOみたいな国産高級メーカーでも中身は海外製だらけ)
- むしろ国産PCのほうがダサくて不安になるという日本人も増えつつある
- 資本、設計、工場、人材も多国籍化している(たとえば外資系メーカーが日本法人と日本工場をもっている場合がある)
- 中国企業や韓国企業に個人情報が漏れることを警戒している人がいるが、個人情報の利用は日本企業やアメリカ企業もやっているし流出事件もやらかしている
- NECや富士通のパソコン事業は中国レノボ傘下(この3社は同類項みたいなもの)
- 日本の大手法人の中にはレノボ製品を大規模に導入している例も結構ある
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国産メーカーのパソコンは海外部品の集合体
まずデスクトップでもノートパソコンでも重要な部品といえば、CPU(演算処理装置)とメモリ(一時的な記憶装置)とストレージ(長期保存の場所)。
国産PCに搭載されているCPUを見てみると、ほとんどがアメリカのインテル社かAMD社のCPUを搭載しています。
グラフィックス(映像処理装置)についてもインテル、AMD、NVIDIAといったアメリカ企業がやたら強いです。
アメリカ企業が設計しているCPUやグラフィックスにしても、その製造は台湾企業が担っている割合が多いです。
その台湾企業はアジア各地に製造拠点をもっています。とくに中国は各国企業の工場が多くて有名。
メモリはCPUよりは多様であるものの、韓国企業が強いです。
メモリの製造は中核となるチップ(DRAM)は韓国のSamsungとSK Hynix、アメリカのMicronがやたら強くて、そのチップをもとに他企業がメモリとして製品化します。
マザーボード(基板)は台湾企業がかなり大きなシェアをもっています。
パソコンサイズの液晶パネルは、韓国、中国、台湾の企業が大きなシェアをもっています。
とくに韓国のLGはPC向けでもテレビ向けでも有機ELパネルの世界シェアが大きく有名。
電子部品をつくるのに必要不可欠なレアメタルは、中国、アフリカ、ロシア、南北アメリカといった大陸諸国ばかりが産出国。
原油も中東に偏在していて、それらは日本経済を支えている以上、日本の政財界は資源大国に強く主張しにくいといえます。
ソフトもアメリカ企業が強い
アメリカ企業はハードだけでなくソフトにおいても突出した強さを誇っています。
たとえばOS(基本ソフト)はアメリカのMicrosoft社のWindowsが世界の主流。
そしてWord(文書作成)、Excel(表計算)、PowerPoint(プレゼンテーション)においてもMicrosoft Officeシリーズが大きなシェアを維持しています。
ほかにブラウザや検索エンジンもGoogleやMicrosoftなどアメリカ企業の独壇場と化しています。
以上のソフト、ブラウザ、検索エンジンは海外メーカーが海外でつくった日本市場向けパソコンにも入っており、日本語にもきちんと対応しています。
※IBM、Adobe、Oracleのソフトも世界中で使われています。
※Microsoft社のWindowsとIntel社のCPUが搭載されたパソコンは俗にWintel(ウィンテル)と呼ばれます。
アメリカ企業はすごい:アメリカ人だけの力ではない
純国産のパソコンなんて存在しない
パソコンのパーツやソフトは海外産がとても多いわけです。
「国産パソコン」と聞くと何から何まで日本で生み出している感じがしますが、実際にはさまざまな企業のパーツやソフトを日本で組み合わせているにすぎません。
各部品メーカーは得意なモノだけを生産したら、あとはパソコンメーカーが調達・組立・検査・出荷するというわけ。
つまり、現代のパソコンは海外との分業によってできており、中でもパソコンメーカーは「組み立て屋さん」としての性質が強いのです。
Windows系のパソコンなら組み立てメーカーがNECや富士通みたいな日本企業でも海外メーカーでも内部のパーツは大して変わりません。
ノートパソコンの場合、ベアボーン(外枠の中にマザーボードや液晶が入っている半完成ノート)が台湾メーカーによって生産されています。
メーカーはそういう共通品を利用して組み立てると完成品を安く提供できるというわけ。これも日本で組み立てれば一応「国産」です
「Designed by Apple in California Assembled in China」の意味
現代の世界経済はとても複雑なため、原産国表示(例:Made in Japan)の統一的な国際ルールはありません。
ただし、主流の解釈としては「実質的な変更をもたらす行為」が起きた地域を原産国と見なします。
たとえば電化製品だと、部品が外国製だらけで在留外国人が組み立てたとしても日本国内の工場で組み立てれば「Made in Japan」と表記できるのです。
「実質的には外国製やないかい」とツッコミたくなる商品も結構ありますけどね。
国産PCの差別化戦略は正しいか
パソコン内部のパーツやソフトはどのメーカーも似たようなもの(Appleだけは例外で独自性が強い)。
そうなると日本のパソコンメーカーとしては、余計なソフトをプリインストールする、筐体の耐久性では負けない、超軽量モデルを生産する、みたいな感じで差別化しようとしました。
余計な機能をつけて売ろうとする戦略は日本の家電全般に通じます。
筐体(きょうたい)とはパソコンのさまざまな主要部品がおさめられている箱のこと。要するに機械の外枠(フレーム)です。
筐体やネジ、ヒンジ(ちょうつがい)みたいな非電子部品は、日本国内のパソコン組み立て工場であれば日本製のシェアが高かったりします。
またコンデンサという電子部品は国産がやや多いという説もあります。
国産PCが高い理由
しかし、外国人も含めて大多数のPCユーザーは余計な機能や超軽量の高額パソコンよりも標準スペックでそれなりに安いパソコンをもとめるもの。
PC部品は世界的にほぼ共通化していますからパソコンを買う際にコストパフォーマンスを重視するのは当たり前なんです。
にもかかわらず国産メーカーの多くのパソコンは余計なプリインストールや割高設計によって本体価格が高止まりしています。
たとえば富士通やNECのCeleron機種(低スペック)と、レノボやDELLのCore i3~5、Ryzen3~5機種が同じような価格帯か前者のほうが高いくらい(メモリやOfficeソフトも同じにした場合)。
Core i3~5、Ryzen3~5は標準スペックですから、知識があれば後者を選ぶのは当然なんです。
参考:国産パソコンが高い理由
- 「国産」と銘打てば価格が高くても買ってくれる日本人がいるから
- 「日本の役所や学校が税金でパソコンを買うなら国産にしろ」という層がいるから、国産メーカーは調子に乗って価格を高く設定する
- 人件費は中国より少し高いから
- 余計な機能をつけているから
- サポート料金を安くしている分、本体価格を上げるから
※家電量販店のパソコンは国産の割合が多いです。
国産PCは衰退する一方なのか
国産PCは高くても日本国内のグループ企業や役所からは手厚く買ってもらえていましたから、昔はまだ経営が成り立っていました。
昔の国産パソコンには日本の部品が今よりは多く使われていましたが、1990年代からは人件費の安かった中国・韓国・台湾の部品が強くなっていきました。
PCパーツは品質はそこそこで価格は安いものが世界的に好まれますから、人件費の安い国での生産は有利なのです。
そして情報化とグローバル化がますます進行している21世紀では海外勢の安いパソコンに勝てなくなったのです。それゆえ業界再編が相次いだというわけ。
東芝、ソニー、日立、三菱電機などがパソコン事業を手放したことは当時かなり話題になりました。
まあApple並みの独自性やブランド力があれば高くても売れるんでしょうけど、それはスゴク難しいです。
組み立て技術はほとんど差がない
現代の日本人と中国人とではパソコンの組み立て能力に違いはほとんどありません。
高級志向で品質に厳しいAppleでさえも中国やインドに工場があるくらいですから。
一定の知識と少しの道具があれば素人でもデスクトップPCが自作できるのも(=プラスドライバーだけで組み立てられる)PCは主要部品の寄せ集めによってできているから。
※主要部品とはマザーボードやメモリなど一定の独立性をもった電子部品のこと。
※ノートパソコンの自作は難しめ。
国産と海外産がごちゃごちゃになる時代
本国 | 組み立て工場 | 本体価格 | |
レノボ | 中国 | 中国 山形県米沢市 |
安い |
DELL | アメリカ | 中国 | 安い |
マウスコンピューター | 日本 | 長野県飯山市 | やや安い |
HP | アメリカ | 東京都日野市 中国 |
やや安い |
ASUS | 台湾 | 中国 | やや安い |
Apple | アメリカ | 中国 | やや高い |
Microsoft | アメリカ | 中国 | やや高い |
NEC | 日本 | 山形県米沢市 | やや高い |
富士通 | 日本 | 島根県出雲市 福島県伊達市 |
やや高い |
DynaBook | 日本 台湾 |
中国 | 高い |
Panasonic | 日本 | 兵庫県神戸市 | 高い |
VAIO | 日本 | 長野県安曇野市 | 高い |
※レノボ、DELL、HP、ASUS、Apple、Microsoftはもともと外資ですが、いずれも日本法人を設立しました。
※工場が日本にあるメーカーでも、日本では海外工場でつくられたモデルも流通しています。
※上記表のメーカーはほかの地域にも工場をもっている場合があります。
※現在のDynaBookはシャープの子会社であり、そのシャープは台湾の鴻海精密工業の傘下。
外資の中には日本法人と日本工場をもっているメーカーもある
現代ではパソコンメーカーの資本関係もややこしくなっています。
たとえばNECと富士通は日本の大企業ですが、パソコン事業においては中国レノボの傘下です。
そのためレノボの一部モデルはNECの工場である山形県米沢市でも生産されています。
日本のNECや富士通のパソコンシェアはかつて世界上位にありましたが、現在の海外市場で存在感はかなり寂しくなってしまいました。
またアメリカのヒューレットパッカード(HP)は日本法人を設立するとともに東京都で工場を稼働させています。
日本人の中には外資系企業に勤めている人もいれば、外国人が日本企業に勤めている場合もあるように、PC生産を取り巻く環境は多国籍化しています。
パソコンの生産は多国籍化していることを総合的に考えると、パソコンメーカーの国籍を気にするのはあまり意味がないことがわかります。
国産メーカーと外資系メーカーの違い(例外あり)
国産メーカーと外資系メーカーのパソコンは部品類は同じとは言っても、本体価格、説明書、プリインストール、サポート拠点、サポート料金に違いがあります。
- 設計や研究開発国産メーカーは日本国内、外資系メーカーは本社がある国で行っている傾向がある
- パソコン本体価格大手外資系メーカーは生産数が多いため価格は安い傾向にある(AppleとMicrosoftは例外的にちょっと高い)
- ノートパソコンの重量同サイズの液晶かつ同スペックだと国産のほうが少し軽い傾向にある(日本人の体力や電車での持ち運びに合わせた措置)
- ノートパソコンのサイズ外資系メーカーは14~15.6インチを主力とするが、国産メーカーは13.3~15.6インチを主力とする(日本人の体格に合わせた措置)
- 説明書国産メーカーは紙製説明書が分厚く丁寧だが(オンライン説明書もある)、外資系メーカーの紙製説明書は薄っぺらで詳細をオンライン化している
- プリインストール国産メーカーのほうが多い(マウスコンピューターは国産にしてはプリインストールが少なくて価格が安い)
- サポート拠点国産メーカーは日本ばかりで、外資系メーカーは日本と中国という場合が多い
- サポート料金国産メーカーのほうが安い(その分、本体価格が高い)
- 新品購入時の納期や修理を頼んで返ってくるまでの期間日本国内に生産拠点のあるメーカーのほうが早い
さらにパソコンを注文してからの納期は日本国内の工場で生産しているモデルのほうが早い傾向があります。
中国で生産したパソコンは船便で日本に送られるのが普通ですから遅くなりやすいのです。
ただし、中国で生産しているメーカーでも日本国内の倉庫には即納モデルを抱えている場合もあります。この即納モデルの納期は早いです。
富士通やNECのパソコン事業は中国レノボ傘下
ここまでパソコンメーカーを見るうえで「国産」はあまり気にする必要はないと述べてきました。
なかには中国企業のレノボを怪しむ声も一部にありますが、レノボの一部モデルはNECの米沢事業場(山形県米沢市)でも生産されています。
そして個人情報の扱いにうるさい日本の役所や金融機関はそんなNECや富士通のパソコンを使い続けています。
もしレノボ傘下であるNECや富士通のパソコンがヤバイのだとしたら日本の役所や金融機関はとっくにパソコンを切り替えているはずですが、そうはなっていません。
確かに中国には怪しい企業もありますが(とくにAmazonとか)、レノボがNECや富士通を傘下にしているのは紛れもない事実。
レノボ製品を大規模に導入している法人(ほかにもあり)
- 国立大学法人京都大学
- 北九州市教育委員会
- 鹿島建設株式会社
- キリン株式会社
- 株式会社デンソー
- トヨタ自動車株式会社
- TOTO株式会社
- 慶應義塾大学病院
- アステラス製薬株式会社
日本人は外資を拒めない
もし日本人の個人情報を外資に握られるのがイヤなら、Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft、LINE、Twitterとはすべて手を切る必要がありますが、そんなのはほとんど無理。
富士通、ソニー、NTT、楽天、野村證券みたいな日本の大企業グループだって個人情報流出はやらかしています。
おすすめの国産パソコンメーカー
それでも国産PCにこだわる人もいるでしょう。その気持ちわかります。
どんなメーカーでもパソコンの設計や組み立て、検査、サポートには人件費がかかるように「自分の払ったお金は日本人の給料になってほしい」と考える人もいます。
そこでおすすめなのがマウスコンピューター。マウスコンピューターのパソコンは長野県での組み立てであり国産PCとしては安いです。
マウスコンピューターの母体は東証スタンダードに上場する有名企業ですし、サポートも日本拠点で24時間対応ですよ。
2ch創設者のひろゆき氏がゲーミングパソコンを児童養護施設に寄付したときに買い付けたメーカーも日本のマウスコンピューターでした。
つまり、マウスコンピューターはひろゆき氏が認めるだけのコスパだということ。
他にも寄付用パソコンに使ったメーカーはありましたが、富士通やNECの名前はなかったとさ…。